ハイドロケノエルスモア石 Hydrokenoelsmoreite
□2W2O6·H2O;等軸晶系 (パイロクロアスーパーグループ > エルスモア石グループ)
本鉱物はパイロクロアスーパーグループの一種で,2005年にオーストラリアのエルスモア鉱山から産地にちなんで “エルスモア石” として記載されたのが最初である (Williams et al., 2005).その後,2010年にパイロクロアスーパーグループの命名規約が定められ,現在有効な鉱物名であるハイドロケノエルスモア石に改められた (Atencio et al., 2010;Christy and Atencio, 2013).
ハイドロケノエルスモア石とは妙な名前である.パイロクロアスーパーグループはA2-mB2X6–wY1–nの一般式で表される一大鉱物グループで,X席には通常O (酸素) が入り,B席においてW6+が卓越するものはエルスモア石グループに細分される.さらにその中でY席がH2O (ハイドロ),A席が “空席” (ケノ:vacancyを表すギリシア語にちなむ) の場合,それぞれの接頭語をつけてハドロケノエルスモア石になるという訳である.長い鉱物名なので途中にハイフンをつけたくなるが,つけてはいけない.なお,この命名規約では,古くから知られていた鉄重石華 [ferritungstite,(K,Ca,Na)(W6+,Fe3+)2(O,OH)6·H2O] はハイドロケノエルスモア石の変種扱いとなり,鉄重石華は鉱物種から抹消された.
本鉱物の和名に “鉄重石華” が用いられることがあるが,鉄は必須成分ではないため不適当であると思われる.
京都府亀岡市 行者山 (Gyojya-yama, Kameoka, Kyoto Prefecture).FOV ~1.5 mm.
石英の空隙に,濃橙色の (111) 面からなる単純な八面体の自形をなす (高田,2004;鉄重石華として).久野 (2006) の標本.
京都府相楽郡和束町石寺 (Ishidera, Wazuka, Kyoto Prefecture).FOV ~1.3 mm.
石寺のハイドロケノエルスモア石はほとんど鉄を含んでおらず,石英の空隙に微細な八面体結晶の集合体をなして産する (Shimobayashi et al., 2012).
文献
- Atencio, D., Andrade, M.B., Christy, A.G., Gieré, R. and Kartashov, P.M. (2010) The pyrochlore supergroup of minerals: Nomenclature. The Canadian Mineralogist, 48, 673-698.
- Christy, A.G. and Atencio, D. (2013) Clarification of status of species in the pyrochlore supergroup. Mineralogical Magazine, 77,13-20.
- 久野 武 (2006) 四人組,西へ走る.2005GW採集記.ペグマタイト,76,17-20.
- Shimobayashi, N., Ohnishi, M. and Tsuruta, K. (2012) Secondary tungsten minerals in quartz veins in the Ishidera area, Wazuka, Kyoto Prefecture, Japan: anthoinite, mpororoite, and Fe-free hydrokenoelsmoreite. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 107, 33-38. https://doi.org/10.2465/jmps.111020f
- 高田雅介 (2004) 京都府亀岡市行者山に見られるタングステン鉱物とその結晶形態について.その3.鉄重石華の結晶形態.ペグマタイト,66,14-16.
- Williams, P.A., Leverett, P., Sharpe, J.L. and Colchester, D.M. (2005) Elsmoreite, cubic WO3·0.5H2O, a new mineral species from Elsmore, New South Wales, Australia. The Canadian Mineralogist, 43, 1061-1064.
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